#047 ホラー話 2010.08.07.SAT
■「コストコ」というスーパーのことを「スットコ」だと思っていたという男がいた。スットコはお前だ。
■最近、電車に乗っていると『駅構内での暴力行為・痴漢行為は犯罪です』という吊り広告をよく見かける。いや、一言いいだろうか。それは駅の外でも犯罪だ。『やるならヨソでやってね、ヨソで。ウチは迷惑だからさ。困るから。ヨソでやる分には、知ったこっちゃないから、お好きにどうぞ。まあ兎に角、犯罪は駅の外で!よろしく!』という思惑がモロに出ていて、イヤになる言葉だ。昔、中学生のころ、担任が「茶髪・酒・タバコは高校生になってからやってね。私はそういう問題とは関わりたくないんで」と堂々と言い放って、たまげたことがあった。マア素直っちゃあ素直なヒトビトである。素直だから問題ないのかといえばそんなことは全くもって微塵もないのだが。こういった発言・考え方には何だか「疲れ」が見えるなあ、と感じる。マトモにバカの相手をして「疲れ」たくないのだ私は、という想いを感じる。それは「悲鳴」に近い「疲れ」である。何があった。何がそうさせた。
■夕方。駅前にある立ち食いのうどん屋に入り、「冷やしたぬきうどん」を注文した。待つこと1分、出てきたうどんはしかし全然「冷やし」ではなかった。常温、というのでもない。ぬるくすらないのだ。茹で上げ、アツアツだ。アレ?絶対に冷やしてないよ、これ。冷水で洗う工程を飛ばしているとしか思えない。従業員のおばさんに恐る恐る申告する。「あの~」「ハイ?」「これ、冷たくないんですけど」「ハア?」「(うわ、めんどくさい客だと思われたなあ・・・)これ、冷やしたぬきですよね?熱いんです。冷水通してないんじゃないかな、と思って・・・」「何?営業妨害?」「いえ、あの、え?」「ソレ、見て」(壁の貼り紙を指すおばさん)。壁紙にはこうあった。『商品及び従業員へのクレームは悪質な営業妨害とみなし、警察へ通報します』
■おお、ディスコミュニケーション。疲れてる、皆疲れているんだ。俺も疲れる。愛想笑いと共に、体中から力が抜けていく。もういい。このことは忘れよう。アツアツの『冷やし』、そのマヌケにも哀しいひとすすりごとに忘れてしまおう。ここが何処なのか。今がいつなのか。しかし、添えられた具材のトマトだけがキンキンに冷やされていて、それがまたひとしお物悲しい。うどんの熱できゅうりがヘナヘナなのが堪らなく侘しい。
■ま、そこまではいい。事件はその後起こった。
■食器を下げて店を出ようとするとき、背中におばさんの声が振ってきた。「わさび付いてんだから、『冷やし』に決まってんじゃない。ウチじゃ、わさび付きを『冷やし』って言ってるんだからね!ヘンな文句つけんじゃないよ!」
■正直に言おう。拳を握り締めた。振り返るか、そのまま店を出るか、0.2秒程考えた。妙に冷静だった。振り返ったら、多分、取り返しの付かないことになるだろう。それでもいいか、と思った瞬間、反射的に体が店のドアを開けていた。一目散にダッシュして店を離れた。あれが「キレる」という感情だろうか。人生ではじめての感情だったかも知れない。それから2時間くらい、ずっとドキドキしていた。思い出して今も、少しドキドキしている。
■私は疲れた人間にはなりたくない。だが、マトモに相手をしていては理性が持たない相手というのも、また、いるに違いないのだ。そういう相手に出会い、出会い続けて、傷つき、疲れ果て、そして皆、頑なになっていったのだろうか。あの人も、あの人も、あの人も。これはホラーの構図である。スプラッタではなく、ホラー。フイにその世界に放り込まれた者は、ただ悲鳴を上げることしか出来ない。鍵を掛けた部屋で震えながら息を殺して、家から出て行ってくれるのを待つしかない。・・・そうだろうか?本当にそうなのだろうか?
■バカバカしい程の暑さで、俺も疲れているのか。まだ夏は大分、残っているというのにね。
小野寺邦彦
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トウキョウ・エントロピー