#043 どこかに 2010.05.09.SUN
■電車の中。お世辞にもイケメンとは言えない高校生男子が友達に向かって語っていた。
「女は『花』なんだよ。俺は造花でも愛せるぜ・・・」。
まず間違い無く、目の前の友達の方が君よりはモテているはずだ。
■昨日は大学時代の友人に誘われて、夕方から仙川の町を2時間余りもぐるぐる歩いた。ここにある高校に通っていたのはもう10年も前の事になってしまった。僕が通っていた頃は特に何もないこぢんまりとした静かな町で、遊ぶ場所なんて何もなかった。普段、学校帰りによく通ったのは駅前の渋いうどん屋だ。だから皆、新宿や渋谷に遊びに行った。僕もそうだった。
■それがどうだろうか、この変わりよう。お洒落な店と人とで溢れかえり、活気がある。中央線沿線の人気のある駅前のようだ。実際今では、若者が住みたい町、なんだそうだ。僕もちょっと住みたい。インドカレーの専門店まである。象の神様がお出迎えだ。
■きっと今、僕がこの駅に通う高校生だったら、わざわざ新宿や渋谷に遊びにはいかないだろうと思う。充分だ。仙川で充分、楽しめる。友達だって呼べるだろう。デートだって出来る。当時は・・・無理だった。僕は多分、あまりこの町にいい印象を持っていなかった。ちょっと寂れた、つまらない町。快速電車だって停まらない。新宿や渋谷なんかで知り合った友人に、何処の学校?と聞かれて「仙川」と答えるのが何となく恥ずかしかった。
■なんてことを考えていたら、思い出したことがある。大学に入りたての頃、知り合ったばかりの油絵科の友人が話してくれた言葉。
■「俺の田舎はね、何もナイところなんだよ。何もナイ、ってゆうのは喩えじゃないんだ。本当に何もナイんだ。田んぼと、山と、原っぱと、家だけなんだよ。映画館も、カラオケも、ファミレスだって、一時間掛けて山を降りた先にしかないんだよ。そんな所にはね、美術に興味がある人も、絵を描く人もいない。理解できないんだ。仕方がないけどね。俺は田舎では変人だよ。いつだって一人だったよ。だからね、こっちに出てくるしか、俺が生きていく方法は無かったんだ。ここから出て行きたいって、それだけを思って、絵を描いていたんだよ。2浪もしたけどね。俺は東京にいたら、多分美大には来てないだろうな」
■話し込んで、すっかり遅くなってしまった帰り道。集合団地の裏手、もうずっと空き地だった場所に、ポツンと新しいコンビニが出来ていた。
■どうやら出来てから一週間ほど経っているらしい。店の前の駐車場には原付きバイクの群れがあった。もう溜まり場になったのだろうか。彼らは、このコンビニが出来るまでは、今までどこでたむろしていたのだろう。家にいたのだろうか。もっと遠くまで遊びに行っていたのだろうか。ちょっと店内を覗いてみた。バイクの持ち主であろう少年たちが、お菓子や飲料水を手に、はしゃいでいた。これからバイクに乗って、何処かに行くのだろうか。それとも、何処へも行かずに、ただこの駐車場でダベり続けるのか。どちらも楽しそうだな、と思った。ちょっと、羨ましかった。
小野寺邦彦
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未完成の系譜