#039 床屋の怪(そのⅠ)  2010.03.11.THU


■まず業務連絡、というかお知らせ。メールでお問い合わせが多い「未完成な犬の末裔」上演台本ですが、まだ若干在庫が御座いますので、メール下されば、通販致します。150ページで1200円。上演台本と役者の写真、あと私の「稽古する前日記」という駄文を収録しております。宜しくお願いしますね。ちなみに「POST WER BABY」の台本も、まだまだあります(コレは明らかに作り過ぎたのです・・・)。是非。

■そういえば先日、といってももう一月近くも前になるのだが、床屋へ行き、散髪をしたのだった。

■床屋へ行くのは中学生以来、実に十数年振りのことだった。その間美容院に行っていた―というのでは勿論無く、自分で刈っていたのだ。私を知る人は、散髪直後の悲惨な私のアタマに覚えがあることと思う。床屋に行かなくなったのには特に理由は無かったが、一度自分で刈ってしまうと、金を払って散髪に行く理由が見つからなくなってしまった。オカシな頭になっても、まあ10日もすれば気にならなくなる。そうこうしている内に、床屋へ行くという意識が無くなった。

■だが公演直後、道端のショウウィンドウに映り込んだ己の姿にフと目をやれば、髪はバラバラ、髭はボウボウ、服はボロボロで、あまりといえばあまりに酷いナリである。衝動的に、通り道にあった床屋に飛び込んだ。だが、そこがマアおかしな床屋であった。

■入り口のドアを開け、「いらっしゃいませ~」と声を揃えて出迎えてくれたのが、まず全員女性だ。それも20~30歳くらいまでのうら若き女子が5,6人もニコニコと出迎えて下さる。男は一人もいない。エ?美容院と間違えたか?いいや、床屋だ。そのハズだ。入り口には赤と青で構成された馴染み深いオブジェがウィンウィンとトグロを巻いている!しかし・・・不安がぬぐえないのは、出迎えてくれた女性店員たちのメイクが何かこう、水商売だ。巻き髪に、目の大きさが3倍くらいの隈取メイク。コリャ、店を間違えたか!「床屋プレイ」的な、いかがわしい店であったのかも知れん。そういえば表の看板の電飾がやけにデコラティブであった。と怯んだところに、目尻が垂れ下がった娘が、妙に鼻に抜けた声で言い放ったものである!

「チケットをお買い求め下さ~い」

ん?チケット?見れば、おお、大変に馴染み深い「松屋」「C&C」に置いてあるモノと同様の「食券マシーン」が鎮座ましましている。違うのはそのメニュー内容である。「豚めし」では無く「カット・シャンプー」が。「ハンバーグカレーマイルド」の代わりに「顔剃り」が。トッピングは「唐揚げ増量」ではなく「マッサージ10分」と来た!それらを客が必要に応じて買う仕組みらしい。こんなことに!こんなことになっていましたか!昨今の床屋事情に疎い私は、それはそれはしこたま驚いた!

■カットにシャンプー、髭剃りにマッサージ、そして主に野球や政治の話題に特化したトーク。それらが全て一体となっためくるめく60分間こそが、「散髪」というジャンルだと私は認識していた!そう、「散髪」とはレッキとしたサービス業であり、ただ髪を切る行為のみを指すモノではないのだ。かつて「散髪」をガッチリと構成していたそれらのピースは、しかし今ではバラ売りされ、客が自由にカスタマイズする仕組みらしい。君だけの組み合わせで、最強の散髪を作り出せ!完全に余談だが、私はラーメン屋で「麺の固さ」やら「スープの濃さ」やら「油の量」やらを客に聞いてくる店が嫌いである。客に選ばせるな、そんなモノ!「この店で一番自信のあるモノを持ってきなさい!」そう言いたい!自己責任でメシなど喰いたくない!うん、長くなりそうなので、次回に続く!(画像は本文中の床屋とは一切関係ございません!)

小野寺邦彦