#037 打ち上がらない男 2010.03.07.SUN


■荻窪で岩松の客演した芝居を観てきた。荻窪アールコリン。前にも書いたが、僕たちが芝居を始めた場所。イロイロと思い出すこともある。

■何せ役者・スタッフ併せて10人いなかった。役者は3人、そのウチの1人が岩松だ。ステージはド平日、火曜と水曜の2回のみ。客が入るのかとても心配だったが、知り合いに声をかけまくり、何とか160人くらいの人が観てくれた。でも手伝ってくれた受け付けのコが遅刻して来た岩松のお父上を「満員ですから」と追い返したりもした。わざわざ仙台から来てくれたのにね!それ以来、岩松君のお父さんは芝居にいらしてくれません!お父さん、ごめんなさい!

■たった2日間の公演はあっという間に終わり、千秋楽の余韻に浸る間もなく、その日の内にすぐバラシ(後片付け)。機材や廃材を載せたトラックに岩松と照明のずんだ君と3人で乗り込み、一路八王子を目指した。その間、他のスタッフや知り合いは一足先に打ち上げ会場へ。2時間もあれば楽勝で合流できるハズだった。しかし道に迷いに迷い、何とか打ち上げ会場へと辿りついた時にはすっかり燃え尽き、死体のように転がる人々の姿。大層盛り上がったようである。飲み・喰いの残骸がテーブル一杯に撒き散らされていた。それを横目に岩松と二人、ひっそりとビールを飲み、何かボソボソと喋ったハズだ。その会話の内容は、もう忘れてしまったが、確かなことはその一週間後に、彼が当時付き合っていた彼女にフられたことだ。

■しかし、マー僕は打ち上げ、というのがあまり得意ではナイ。勿論嫌いではナイが、大人数での打ち上げというのはどうにも身の置き場が無くて困る。うっかりすると真面目なハナシやしみじみとしたハナシが始まってしまうのも油断ならない。酒の席ではバカ話意外はあまりしたくないのだ。他の人が聞いているからである。どうにも照れてしまってダメだ。早くカラオケに流れてソフトでも吸わせてくれればいいものを。

■旗揚げから5ヵ月後に、第2回目の公演を打ったときのこと。やはりバラシを終え、一休みしていると劇場の人に「これからが本番だね!打ち上げ、頑張って!」と言われて、ひどくムっとしたことを覚えている。他意は無かったのだと思う。当時は学生劇団だったワケだし。しかし「打ち上げのために芝居してるワケじゃないぞ」という感情がムラムラと湧き上がってきて抑えることが出来ず、頭を冷やすために学芸大学前の駅前を独りでウロウロと歩き回った。

■それまで芝居をすることに関してあまり深く考えたことは無かった。ただ楽しいのでやっているだけだった。イヤ、正直に言おう。ただ楽しいのでやっているだけ、というフリをしたかった。マジメに芝居をやる、というのがチョット恥ずかしかったのだ。片手間でヘラヘラやってますよ、そんなに真剣じゃないですよ、そんなポーズを取っていた。だから劇場さんの一言に腹を立てた自分自身に驚いていたし、初めて今後のことを考えた。芝居を辞めるか、続けるか。あの第2回公演の、あの劇場さんの言葉が無ければ、続けていなかったと思う。
■極端に言えば、続けるか、続けないかは「打ち上げが無くても芝居が出来るか」 ということだと思った。そして、出来る、と思ったから今も続けている。

■などと感傷に浸っていたら、芝居が始まり芝居が終わった。

小野寺邦彦