#036 センチメンタル 2010.03.05.FRI


■国会で連休を分散して取る案が審議されているらしいが、単身赴任中のお父さんとか、遠距離恋愛中の恋人とかはどうするのか。遠く離れた家族や恋人と休みが合わなくなるじゃないか。

■頼まれもしない心配ばかりしている。

■公演直後の、ある夜の話。終電車で八王子駅に帰ってくると、駅前に大きな鞄を持った女の子が5,6人もポツン、ポツンと所在なさげに突っ立っていた。何だろうと思いつつ、一度は通り過ぎたのだがどうにも気になり、引き返して、一番大きな鞄を持っていた人に、何をしているのか?と聞いてみた。するとホームレスなのだと言う。

■近くの工場で働いていたのだが、閉鎖となり、今日で寮も追い出されてしまった。差し当たって今晩は会社が用意したカプセルホテルに泊まる予定なのだが、迎えの車が予定の時刻を一時間過ぎてもまだ来ないのだと。

■時刻は12時半を回っていた。雪がちらつき始めて、とても寒い夜だった。ちょっと温かいものでもどうですか、と、僕は近くのうどん屋に彼女を誘った。

■終電帰りの人々で賑わう店内。しばらく迷ってから、おずおずと「温玉ぶっかけうどん」というものを注文した彼女に、店員は「温かいのですか、冷たいのですか?」と聞く。すると彼女はびっくりしたのか、反射的に「冷たいのはぶっかけないで下さい!」と大声を出した。あまりの大声に、僕はビックリして、そして思わず笑ってしまった。店員もクスリと笑った。近くにいたお客もつられて笑った。それを見て、彼女自身も大きな笑顔を作って、声にならない声で笑った。その瞬間のこと。彼女のその笑顔があまりにも幼くて、無邪気で、僕はギクリとして動けなくなってしまった。聞けば、彼女は僕よりも一回り近くも年下なのだった。

■ほんの10分足らず、温かいうどんをすすって、彼女と別れた。

■今日は一日、汗ばむような陽気。春の日差しだった。その日差しの中で、ふとあの晩のことを思い出した。

小野寺邦彦