#023 パンツ問題 2009.8.27.THU
■駅前を歩いていると、スカートのお尻の部分が完全に捲くり上がって、パンツ丸見えの女性が歩いていたのだった。世の中には見えてもいいパンツがあるそうだが、そーいう類のものではナイ。恐らくどこかでスカートを托しこんで座ってしまい、立ち上がっても捲くれたままの状態になってしまっていることに気付いていないのだろう。
■こういう場合は本当に悩みますね。どうやってこの事実を当人に伝えれば良いのか?マー「パンツ見えてますよ」ってシンプルに言う以外無いようにも思える。けれどその事実を知ったときの彼女の精神的ダメージを考えると、それもいかがなものか?と思ってしまう。真実を伝えることだけが常に正しいわけではナイ。時としてそれは暴力にもなり得るであろう。かと言ってそ知らぬフリというのもまた非情、冷酷なことである。最終的にどこかでは気づく訳だから、早い段階で修正しておくに越したことはないのだ。だが、どうやって?当人へのダメージを最小限に食い止めつつ、スカートの位置を修正させる最良の方法とは?
■そこでハタと思いつくのである。スカートが捲くれ上がってパンツが見えている、という事象を、新たに捏造した別の事象(パンツが見えているという事象よりもダメージの小さな)に摩り替えてしまえばヨイ。具体的に言えばこうである。例えばその女性に背後から近づき「肩にコオロギが張り付いてますよ」とか言って、コオロギを取るような素振りをしつつ、素早くスカートの裾を直してやるのだ。さすれば彼女は自分のスカートが捲くれていたという事実を永久に知ることはないのである。さっきから道行く人の視線がな~んかオカシイな?と思ってたけどなんだ、コオロギが付いてたのか~それなら納得~。とか思うかも知れぬ。コレだ。あとは当人に一切気付かれず、風のようにスカートの裾を直す技術を習得すればヨイだけの話である。
■さて勿論私にそんな技術はないし、現実にそんなことをすれば犯罪者確定であろう。実際が理想に追いつかないのは、いつだって技術不足のためである。そのまま女性は見えなくなった。また一つ、不幸が生まれる。全ては私の技術不足のせいだ。
■「スカートが捲くれてパンツが丸出しなのに本人がそれに一切気付いていない状態」の役者、というのは稽古場にはゴロゴロいる。(もちろん、比喩ですからね。)「そのスカートの裾を本人にも気付かぬ内に直してやること」こそ、演出家の仕事である。そこでは常に技術が要求される。今の私では及ぶべくもないことだ。あの駅前の女性に、結局何もすることが出来ずに見送るしかなかったように、稽古場においても「どうしたらいいのだ」とボーゼンとすることの多いこと!方法は見えている。ただ全ては技術の問題である。そのときボーゼンと佇む演出家のスカートの裾もまた、捲くれていないとは限らない。
■セミの死骸が道端に転がる。夜には鈴虫、早くも秋の気配。でもまだ8月。
小野寺邦彦
ラベル:
フロム/失踪者