#017 おしまい(その2) 2009.7.25 SAT


■前回からの、続きです。

■それにしても、いきなり高度MAXの地点から始めるのではなく、最初はそこそこの高さから始めて、実力に応じて徐々に高度を上げていけば良いではないか、という意見があるでしょう。現在の力量で言葉と動きとの折り合う地点を探る、それが「バランス」を取ったらどうか、という考えかと思います。

■もし架空畳の公演が、今現在巷に溢れている「プロデュース公演」という形態であったのなら、僕もそうしたと思います。
プロデュース公演(演劇ユニット、とかいう言葉もあるようです)とは、決まった役者を持たず、公演の度に毎回違う役者を募って上演する形態のことです。その公演、一回限りのメンバー(座組み)で行うものなので、つまり失敗が利きません。
毎公演ある程度決まったメンバーで公演を打つ劇団というシステムであれば、失敗も経験として蓄積され、次の公演への反省材料として活かすことも出来ますが、一回こっきりのプロデュース公演では、失敗は失敗でしかなく、それでオシマイです。「次」がないんですから、次につながるもクソもないわけです。
そして、失敗してしまった役者には二度とお呼びがかかることは無いでしょうし、ダメな本を書いた作家の下へは、人は集まらなくなるでしょう。
そのためにリスキーなことは出来ません。安定した内容・安定した演技で、ある一定の水準をキープすることが求められます。
(これは例えば様々な劇団から主演俳優ばかりを集めてくるといった、いわゆるスターシステムに代表されるように、レベルの高い役者が集まれば、大変面白い公演になる可能性も勿論ありますし、事実そういったものが多いです)

■対して、劇団の魅力とは何でしょうか。
僕は、極端なことをすることだと思っています。いびつなものを見せるのが劇団だと思います。ある一定の、安定した水準の作品を提供するのではなく、大コケするかもしれないけれど、ひょっとしたら、とんでもなく凄いものにバケる可能性に賭ける。
若しくは物凄くアクやクセが強くて、好きな人は堪らなく好きだけど、嫌いな人は二度と目にしたくもない。
劇団とは常にそんな危うい魅力を湛えたものでなければならないと思います。
プロデュース公演が打率3割のアベレージヒッターだとすれば、劇団はホームランか三振しかしない大降り4番バッターといったところでしょうか。誰も、4番打者がコツンとヒットを狙う姿など、望みはしません。強打者に期待するのは、ドデカイ一発、もしくは豪快な空振り!
僕の愛した、そして今も愛しているあの劇団も、その劇団も、みんなケタはずれの「いびつさ」を持っていました。その試みは大空振りして、大失敗していることも少なくありませんでした。でも、こんなことこの劇団しか出来ない、やろうとしない。例え失敗していても、そこにはとても魅力的な「らしさ」が溢れていたのです。

■何度でも書きますが、劇団は失敗できるのです。
劇団には「次」があるのですから。
大コケするリスクを背負ってでも、面白いと思うもののために挑戦できるのが劇団制のメリットであり、全てであると思います。それから手を離すようなら、他に劇団をやるメリットなんてありません。様々な、煩雑な問題があるだけです。

■では、お客様の立場として、そんな発展途上の未熟な演技を見るためにお金を支払うのか、という問題があります。
その主張は全くもって正当なものですし、事実、今の僕らの演技水準は決して高いものではありません。今回の公演においても、多くのお客様に「動き」の問題を指摘されました様に、役者も演出家としての僕も「膨大なセリフという縛りから自由になる動き」という命題を今回の公演でクリアすることは出来なかったワケです。チャレンジはしましたが、失敗してしまったと言っていいでしょう。

■僕らは今はまだ、口だけ達者で実際は大したことの無い、頭でっかちなのかもしれません。
でも、でかい頭を小さくして、小さい体に釣り合わせようとは全く思いません。体も頭と同じくらいでかくして、いつかバケモノのような大巨人になれればいいと思います。
その可能性を感じてくださる方、発展途上のいびつな未熟さに魅力を感じていただける方は、どうか今しばらく架空畳を見続けて下さい。そんな未熟なものには付き合えない、完成され、安定した水準の作品だけが見たい、という方は数年後また観に来て下さい。その時、もし以前と何も変わっていないと感じたら、見切って下さって結構です。
あなたにとってもっと面白いものを探して下さい。世の中には、面白いものが本当に沢山ありますものね。

■劇団を観劇する際には、「育っていくのを見る」楽しみという、既に完成してしまったものを見るのとはまた違った楽しみ方があります。どうか、見守って頂けましたら幸いです。
そして、ヒドイと思いましたら、どうかアンケートに一言「ヒドい!」と書いて下さい。
その一言が、今の僕たちには必要なのですから。

■最後だから、長くなってしまいました。結局言いたいことは一つ。
劇団、というカタチを選んだ以上、僕たちは劇団としての魅力にこだわる。
それだけです。
こんなに長々と行数を費やして、とっても普通のことを言ってしまいました。すいません。

■そんなわけで、「POST WAR BABY」、公演が終わってから2週間も経ってしまいました。「生活の冒険」もこれでオシマイです。お付き合い下さいまして、有難う御座いました。
来週からは10月末の新宿シアターモリエールでの公演「NAVIの世界の失踪者―ト書きの人々-」のための新しい推敲日誌が始まりますので、そちらもよろしく。

生活の冒険・完

小野寺邦彦